碩果不食。君子得輿。小人剝廬。
── 剥卦、上九
この辞につき、易学大講座には、
面白いことが書かれてあります。
(山地剥の)各爻辞を通観してみますと、五爻などの、何かしら故事来歴を秘めてゐるやうな、捨てがたい味のある繇辞を無理に押込んだやうな、そぐはぬ感じのする辞と違つて、此の上爻などは卦象・卦意の諸点を綜合し、且つ陽を尚び重んずる易の観方からすれば、最も素直に理解できる辞で、傑出したものだと言へませう。
「繇辞」 はチュウジと読みます。
易経以前に行われていた占いの言葉、
です。
五爻の、
貫魚。以宮人寵。无不利。の辞は、
繇辞から引っぱってきて、
易経に編入した代表的な句であると。
ゆえに、
「無理に押込んだやうな、そぐはぬ感じのする」
それに比べて、この上爻の辞は、
素直に理解できるし、傑出していると。
たしかに、
このまま占に使えそうですが、
小生にはやはり難しいと感じるのです。
上爻の一陽は、
万物が始まるところの乾元たる陽気であって、
決して消滅することはない、
上から落ちれば下に生じ、
下に生ずれば上から落ちる・・
そういう一陽なのです。
「一剥一生、終に剥尽し了るの期がない」
とは古人の言葉です。
「陽気の生々不息の義」
とは今井易経。
こういうところがむずかしいのです。
「君子得輿」 で、
一陽が推戴されて世を治めていればよいが、
「小人剝廬」 で、
小人が一陽を剥落して上におれば、
家の屋根が壊れてしまう象となり、
小人は安楽な暮らしができなくなる。
こういうところもむずかしい。
ちなみに、
引用文の 「陽を尚び重んずる易の観方」 とは、
いわゆる 「扶陽抑陰」 というやつです。
陽をたすけ陰をおさえるという易の思想。